『強い』ブランドの特徴
企業が市場における優位性を勝ち得るには、「ブランディング」が欠かせません。しかし、ブランドの構築は一朝一夕に成しえるものではなく、地道な企業努力の積み重ねが必要です。
Apple社に学ぶブランド戦略
ブランドとは、自社の商品やサービスを、他社のそれらと区別するための考え方を指します。ブランドのマネジメントは、経営そのものと言ってもいいでしょう。経営者の伝えたい思いを、顧客との接点である商品デザインに込めて、顧客とコミュニケーションを取る行動がブランディングです。
Apple社の事例は多くの示唆に富んでいます。かつては、Apple社の新製品の発売日には、ショップの前に前夜からユーザーが行列をなすのは見慣れた光景でした。家電量販店のApple製品を売る一郭は、そのエリアだけが独特の世界観を醸し出し、熱狂的なファン層を形成しています。このような現象は、偶然によるものでしょうか。最新機能を、洗練されたシンプルなデザインの筐体で包んだiPhoneは、感性に訴える「マルチタッチ」で多くのユーザーの心をつかみました。機能とユーザーインターフェイスとの最適な融合を目指した結果、Apple社のブランドは市場において一定の優位性を確立したと言えるでしょう。
ユーザーの感性に訴えるデザイン
Apple社を再建した故スティーブ・ジョブズ氏は1997年にCEOとして同社に復帰しました。当時、Apple社は業績悪化のため、打開策を模索していました。復帰後、最初の会議でジョブズは、こう指摘しました。
「プロダクト(製品)が最悪なんだよ。ちっとも、セクシーじゃない!」
彼はデザインを、単なる差別化の手段とは捉えていませんでした。デザインする際に重要なことは、「ユーザーが製品を使用してどう感じるか」であると主張しました。iMacの開発時には、市場シェアや処理速度にこだわるのではなく、ユーザーがその商品に触れた時、どう感じるかにウェイトを置きました。また、iPhoneのデザインを行った際には、「湖からディスプレイが浮かび上がってくる」というイメージから、ディスプレイを重要視するプロダクトデザインが生まれたといいます。
このように、ユーザーの感性や感情に直接訴えるデザインは、Apple社のブランディングに大きな役割を果たしたと言えるでしょう。シンプルさをデザインコンセプトの中心に置いたのです。シンプルだからこそ仕事で利用しやすく、あらゆる年代層にも受け入れられやすい、という考え方に基づいているのです。
Apple社に見るマーケティング戦略
マーケティングには、「4P理論」と呼ばれる考え方があります。
4Pとは、下記の4つの頭文字を取ったものです。
・商品戦略(=Products)
顧客に提供する商品やサービスを作り出すこと。
・販売チャネル戦略(=Place)
どのような手段と経路で、商品を顧客に届けるか。
・プロモーション戦略(=Promotion)
商品の存在や特徴を、ユーザーにどのように伝えるか。
・価格戦略(=Price)
価格をどう設定するか。
Apple社はこの4P理論を踏まえ、独自の戦略を展開しました。
まず商品(Product)においては、今までにはない、感覚的な操作性を追求したインターフェイスを搭載しました。次に流通(Place)では、アップルストアにおける優先販売を行ったほか、iTunesStoreのみでコンテンツを販売するなどの手法を取りました。そして価格(Price)は、世界統一価格とし、通信定額制プランを標準で採用したのです。最後にプロモーションですが、以前、Apple社は、iMacやPowerBookG3などの新製品を市場にリリースした際、「Think Different」というキャッチコピーとともにキャンペーンをはりました。コピーが意味するのは、「固定観念を壊し、新しい発想でコンピュータを使用する」ことでした。イメージキャラクターには、アインシュタインやピカソ、ガンジーなどの時代の先駆者の画像が使われました。その後も、iPhoneやiPadなどが市場投入されると、「ハード」、「ソフト」、「サービス」の3つの要因が相乗効果で働くことになりました。その背景には、緻密なマーケティング戦略が存在したのです。
Apple社がブランディングに成功し熱烈なユーザーを獲得した裏には、ユーザーの感性に訴えかけるデザインと、考え抜かれたマーケティング戦略がありました。また、製品だけではなく、パッケージ(包装)デザインにもこだわりを見せ、Apple社製品を取得すること自体に高揚感を持たせる演出も成功しました。最新機能にデザイン性を持たせることにより、「機能とインターフェイスとの最適な統合」という明確なコンセプトを打ち出し、ゆるぎないブランドを作り上げたのです。