統合報告書/組織の戦略〜その2〜
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統合報告書を制作するメリット
ではここからは、統合報告書を作成するメリットについて考察してみましょう。
統合報告書を、企業が中長期の将来に渡って、外部環境をどう把握し、経営組織やガバナンス・実績・今後の見通しをどう反映させ、企業価値を創造していくかを簡潔に記したコミュニケーションツールと定義しました。誰とのコミュニケーションであるかといえば、相手は財務資本提供者、主に投資家です。
ここ数年で、投資家が企業を選別する上での判断基準にも、変化が見られるようになりました。これまで投資家は、企業が開示する財務情報に基づいて、その企業の「稼ぐ力」を見極めていました。しかしこれだけでは、過去の実績をなぞるだけで、将来に向けての企業価値を予測するには不十分です。そこで、投資家の注目を集めているのが、非財務情報です。コーポレートガバナンス・コード※2によれば、非財務情報とは、「経営戦略・経営問題リスクやガバナンスに関わる情報」と定義されています。経営財政や売り上げなどには反映されない、定性データに属するものです。経済産業省が平成29年5月に公表した「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンスーESG・非財務情報と無形資産投資―」(以下、価値協創ガイダンス)※3を見ると、投資家が投資判断する際に利用する主要情報ソースの構成比率として、非財務情報が財務報告書を大幅に上回っています。2008年のリーマンショック以降、投資家たちは短期的投資に限界を感じ、長期的な視点に立った投資の必要性に関心をシフトチェンジしていきました。投資家が求めているのは、「長期的な視点に立ち、将来に向けて価値の創造を実現する企業」なのです。財務情報と非財務情報とを合わせた統合報告書は、そうした投資家に向けた格好の情報発信ツールと言えるでしょう。こうした情報提供は、環境や社会への影響を考慮し、持続可能な経営を目指す企業サイドにとっても、長期に渡ったマネー供給に前向きな投資家の共感を集める上で欠かせないものなのです。
※2 コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンスを実現するための原則・指針。
※3 「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンスーESG・非財務情報と無形資産投資―」平成29年5月29日 経済産業政策局産業資金課
https://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170529003/20170529003-2.pdf